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更新日:2023年6月27日 526PV
病院の〈知識〉を生活者の〈知恵〉へ

介護の困りごと・歩行|医療職監修のポイントとセルフチェック

発信者
  • 中日新聞LINKED
監修者
  • 深谷 好広
  • みよし市民病院 リハビリテーション課 理学療法士

気になる症状

歩行介助をしている時に、ヒヤッとしたことや、不安になったことはありませんか?

もしかしたら、歩行の介助について考える機会かもしれません。

今回は、医療スタッフが歩行介助のポイントについてお伝えします。

歩行の介助とは?

歩行は日常生活動作(ADL)の上では、自分の行きたい場所への「移動」の手段になります。歩行介助する上で、「どれくらい歩けるか?」という指標もありますが、この移動できる距離やスピードにより活動範囲も変わります。歩ける距離が長ければ外出も可能となり、社会参加をすることもできます。
一方で、加齢により筋力が低下していくことで歩き方が変わってきます。その結果、つまづきやすくなり、転倒してしまうリスクも発生してきます。高齢者にとって転倒は骨折の原因にもなりやすく、結果として寝たきりになってしまう、人とコミュニケーションをとる機会が減り、認知機能が低下してしまうケースも多くみられます。
歩行は活動範囲を広げるためにも重要ですが、実はリスクのある動作です。次の章では、その重要性とリスクについて解説します。

目次

歩行介助のおさえておきたいポイント

歩行が可能であれば、活動範囲が広くなってQOLの向上につながります。ただ加齢によりご本人も気づかないうちに歩き方が変わって、つまづいたことによる骨折リスクも出てくる動作です。まずは歩行の特徴を知り、その上でリスクを回避していきましょう。

高齢者の歩行の特徴

下肢筋力の低下により、以下のような変化が出てきます。結果としてつまづいたり、転倒することが増えます。

  • 歩行速度の低下
  • 歩幅の低下
  • 歩行率(一定時間に何歩進んだか)の低下
  • 体幹が前傾する、円背となる
  • 股関節、膝関節、足関節の運動範囲が減少する
  • 筋力が低下し、足が上がりにくくなる
  • 下肢の支持時間(床に足底が着いて身体を支える時間)の減少

転倒のリスク

上記のように、加齢により筋力が低下することでつまづいたり、転倒してしまうこともあります。また、つまづいた際に、手をついて骨折したり、腰を打って骨折してしまうケースもあります。この骨折療養中に動かなくなることでさらに筋力が低下していき、寝たきりになるリスクが高まります。

外出不足によるQOLや認知機能の低下のリスク

先にふれたことと関わり、療養中に外出しないことで社会参加の機会が減り、QOLが低下してしまうリスクもあります。またそれにより認知症を発症するリスクも高まります。

歩行では、「転倒」を防ぐことが重要になりますが、なぜ転倒は起こるのでしょうか。人が歩行する際は、重心の移動が繰り返し行われます。この重心が安定した位置にあれば転倒せずにいられるのですが、身体の状態が変化することでこの重心を保つことが難しくなります。

体重を支えるのに必要な床面積を支持基底面と呼び、この支持基底面の面積が広ければ広いほど安定して立っていられます。例えば、人間が両足で立つ場合は2点、杖をついているときは3点あり、その地面についている点に重心があれば安定しています。しかし、加齢によりこの重心がふらついてしまい、支持基底面の外に重心が行ってしまい転倒してしまうということになります。また、麻痺などにより重心の位置が変わると転倒しやすくなります。そのため、人がサポートしたり、杖や歩行器の介護用品を使って支持基底面を広くして安定した歩行を行うようします。

このことを知っていただくと、どこに立つと安定するか、転倒に備えられるかというのも予測しやすくなりますので、試してみて下さい。
次章では安全に歩行するためのサポートのポイントをご紹介します。

目次

適切な介助と環境の重要性

この章では、歩行の際に考えられるリスクを、人的サポートと環境整備により回避する方法について解説します。具体的には、どのようなリスクがあるのか、このあと解説していきます。

歩行時の人的サポート

介護を必要とする方の状態により、介助方法も異なりますが、ポイントは立つ位置で、転倒をしないようにサポートしていきます。

  • 見守り歩行介助
    手すりなどに摑まれば移動できる方や杖をつかって移動できる方を、横側や後方など近くに付き添い、転倒の危険性が無いよう見守ります。
  • 寄り添い歩行介助(腋下介助)
    寄り添いながら介助します。利き手と反対側に立ちます。利き手が右手の場合は、左のわきの下に手を入れ介助します。それでも不安定であればもう片方の手で相手の左手を下から支えるようにして寄り添いながら歩行します。また麻痺のある方は麻痺している側に立ち、転倒に備えます。
  • 手引き歩行介助
    前方への転倒を防ぐために、向かい合い手を引きながら移動します。介助者は後ろ向きにあるくため、注意が必要です。
  • 階段昇降時の歩行介助
    階段昇降時の歩行介助は上る場合は後方に、降りる場合は、前方に立ちます。
  • 歩行器具使用時の歩行介助
    歩行器を使用している場合は、スピードが出ないように歩行器をおさえたり、前かがみになりすぎないよう上半身を支えたりして、ゆっくりと進みます。歩行器は段差のある場所ではかえって転倒リスクも高いため、平坦な場で使用するようにしましょう。

環境整備の方法

外出を支援する杖や歩行器などの福祉用具や自宅内の移動補助として手すりなどを設置し、転倒を予防します。場合によっては廊下や玄関に手すりをつける住宅改修も視野に入れて、安全な環境を作りましょう。

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歩行介助に役立つ介護用品

この章では歩行時のリスクを軽減するための福祉用具や対応策についてご紹介します。

歩行を補助する

歩行補助や転倒防止を目的とした福祉用具があります。要介護認定を受けている場合は介護保険を利用して安価で特定福祉用具として購入したり、レンタル利用できるものもあります。どこでどのようなことをしたいかをケアマネージャーなどに相談をしていただくと適切な介護用品を紹介してもらえます。

  • 杖、歩行器などの歩行補助用具の使用
  • 外出をしやすくするため玄関用手すりの設置
  • 廊下などでも使用できる手すりの設置
  • 自宅内での移動や外出時の車椅子の使用
  • 高齢者の歩き方に適した靴の使用

メンテナンスも重要

なお、杖は使っていくうちに杖の先、歩行器はタイヤが劣化・摩耗していきます。レンタルの場合は定期的なメンテナンスが実施されますが、自費で購入した場合は、滑りやすくなっていないか確認しましょう。杖ゴムはホームセンターや介護用品店で購入ができます。

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歩行介助の総まとめ

ここまで歩行介助に関する注意点や対策を述べてきましたが、改めてポイントを整理します。

歩行は活動範囲や介護の度合いにも大きく影響してきます。気をつけたいポイントを知り、安心した生活を送れるようにしましょう。気になる方はセルフチェックをして、かかりつけ医やお世話になっているケアマネージャーへ相談してください。

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画像提供:PIXTA