切迫早産とは?
切迫早産とは、お母さんの子宮口が開きかけ、赤ちゃんが生まれてしまいそうな、早産一歩手前の状態のことをいいます。妊娠37週〜42週未満での出産は正期産といわれますが、早産は妊娠22週〜37週未満で赤ちゃんが生まれることを指します。
切迫早産の代表的な症状は「お腹の張りや痛み」「出血」「破水」です。
切迫早産による痛みは、妊娠後期より以前に発症し、安静にしていても痛みが規則的に強くなるのが特徴です。また、おりものの量が突然増えたり、赤い性器出血が見られたり、妊娠37週未満での破水が見られる場合は切迫早産の可能性が高まります。
切迫早産が進行してしまうと、早産になる可能性が高まり、無事に赤ちゃんが産まれても、その後長期間の治療が必要となったり、重篤な障害が残ってしまったりと、様々な問題が発生するリスクがあります。赤ちゃんがお腹の外に出るのが早くなれば早くなるほど、そのリスクは高くなるとされているため、切迫早産は早期発見し、速やかに適切な処置を行うことが重要となってきます。したがって、妊娠中に切迫早産の症状が確認された場合や身体に少しでも違和感がある場合は、速やかに医療機関を受診し、専門医に相談しましょう。
また、切迫早産の自覚症状が無くても検査をしたら早産の兆候があると判明することもあります。切迫早産に潜む高いリスクについて理解し、早期発見・早期対処ができるよう、妊娠健診は必ず定期的に受けるようにしましょう。
早期発見の重要性
切迫早産は、早期発見し、適切な治療を行うことで、下記にあげる3つのリスクを軽減することができます。
破水によるリスク
破水すると赤ちゃんを覆っている膜が破れてしまうため、細菌に感染してしまうことがあります。また、破水によって羊水が無くなってしまうと、赤ちゃんの成熟度によっては呼吸ができなくなってしまいます。羊水の減少は、赤ちゃんへの圧迫に繋がってしまうなど、お腹の中の赤ちゃんは非常に危険な状態になってしまいます。
流産のリスク
早産よりももっと早く、妊娠22週未満でもし赤ちゃんが産まれてしまった場合、残念ながら今の医療では赤ちゃんを助けることは難しく、流産となってしまいます。
早産のリスク
妊娠22週を超えて無事に赤ちゃんが産まれても、早産となった場合赤ちゃんに様々なリスクが発生します。例えば、妊娠日数が短いほど赤ちゃんの生存率は低くなり、後遺症や感染症のリスクは高まることが分かっています。
こうしたリスクを回避するためには、切迫早産の早期発見・早期対処は欠かせません。
定期的な妊娠健診を受けることはもちろんのこと、切迫早産になった場合の初動をいかに早められるかが重要になってきます。
そこで、下記では、切迫早産になりやすい人と切迫早産の初期症状について解説しますので、是非参考にしてください。
切迫早産になりやすい人
切迫早産は、妊娠時に未成年もしくは35歳以上の方や、前回の出産から半年以内に妊娠された方、以前に早産の経験がある方がなりやすい特徴があります。
また、糖尿病や高血圧などの生活習慣病を持っている方や、肥満体型・痩せすぎ体型の方、喫煙・飲酒などの生活習慣がある方なども切迫早産になるリスクが比較的高くなることが分かっています。
そして、切迫早産の原因として多いのが「子宮内感染」です。腟から子宮内へ侵入した細菌によって子宮内に炎症が生じ、破水や子宮収縮を引き起こし、早産の原因となります。妊娠初期の膣の細菌が形成する環境の種類によってリスクが変わってきます。(善玉菌の少ない細菌性膣症は早産との関連が推定されています。)そのため、疲労やストレス、他の感染症にかかっているなどの原因で免疫力が低下している方は切迫早産のリスクが高くなってしまいます。
初期症状
切迫早産の初期症状は、お腹の定期的な張りや痛み、腰のだるさ、おりものや出血の増加などが挙げられます。特に、悪臭のあるおりものが出る場合は、感染症が原因の切迫早産の疑いが強くなります。
また、破水の兆候が起きることもあり、その場合は水っぽいおりものが継続的に出てきます。
上記にあげた点で、少しでも気になることがあるお母さんは、迷わずすぐに医療機関を受診しましょう。また、自覚症状が無くても切迫早産になっている場合がありますので、定期的な妊娠健診も欠かさずに受けるようにしましょう。
切迫早産が進行してしまった場合のリスク
ここまで切迫早産は早期発見し適切な対処を行うことが重要ということを解説してきましたが、もし発見が遅れ、切迫早産が進行してしまった場合はどうなってしまうのでしょうか。 この章では、切迫早産が進行してしまった場合のリスクを「赤ちゃんへ生じるリスク」、「母体へ生じるリスク」、それぞれの観点からご紹介します。
赤ちゃんへ生じるリスク
生存率の低下
切迫早産の影響で出産のタイミングが早まってしまえばしまうほど、赤ちゃんの生存率は低下してしまいます。具体的な生存率(※)は、30~31週で97%、28~29週で96%、26~27週で94%、24~25週で86%、22~23週で66%となり、特に22~23週での出産は3人のうち1人の赤ちゃんが命を落としてしまっています。
※「低出生体重児保健指導マニュアル」【表3】在胎週数別NICU死亡退院数・率/小さく産まれた赤ちゃんへの保健指導のあり方に関する調査 研究会作成(みずほ情報総研株式会社)
重篤な後遺症
1)未熟児網膜症
妊娠28週未満での出産で見られることが多い後遺症です。網膜の発達が不十分なため、新生児網膜症に罹る確率が高くなります。未熟児網膜症に罹ってしまうと、視力障碍や失明など将来的に視力に影響してしまうリスクがあります。
2)脳性麻痺、精神発達遅延
早産により赤ちゃんの脳の血管がまだ脆く、血流のコントロールも未熟なことから、脳室内で出血してしまうことがあり、脳性麻痺や精神発達遅延を引き起こすリスクがあります。
3)呼吸窮迫症候群、未熟児無呼吸発作
妊娠34週未満での出産で見られることが多い後遺症です。肺の発達が不十分なため呼吸が上手くできず、産まれた直後から呼吸窮迫症候群が起こりやすくなり、サーファクタント投与が必要で人工呼吸器でのサポートが必要となります。
母体へ生じるリスク
切迫早産による母体への直接的なリスクはありませんが、切迫早産が感染症に起因するものの場合、その感染症の重症化・慢性化には気を付けなければなりません。感染症が重症化してしまうと、激しい痛みや不快感、高熱などの症状が出る可能性があり、子宮周辺の組織に障害を起こしてしまう恐れもあります。また、子宮内の細菌が母体の血中に入り込み、敗血症を引き起こし母体に生命の危険を来すこともあるので、母体救命のために胎児を娩出せざるを得ない場合があります。
以上のように、切迫早産は赤ちゃんにも母体にもリスクをもたらしますが、近年では医療技術が進歩したおかげで、早産になったからといって必ず赤ちゃんの成長が障害されるかといえばそうではありません。
したがって、必要以上に早産の不安を感じるのではなく、妊娠生活を健康的に送れるようにご本人や周りの方々が気に掛けていくことが重要です。
そして、もし気にかかることがあれば、すぐに専門医に相談し、早期発見・早期対処に努めるようにしましょう。
切迫早産の検査方法と治療方法
この章では、実際の妊婦健診のプログラム、切迫早産の検査方法と治療方法についてご紹介します。
妊婦健診のプログラム
妊婦健診のプログラム、スケジュールは妊娠初期 / 中期 / 後期によって異なります。
妊娠初期
4週間に1回の妊婦健診となり、血圧測定、尿検査、体重測定、血液検査、子宮頸がん健診(1回のみ)、超音波(エコー)検査などを行います。
妊娠中期
2週間に1回の健診となり、妊娠初期の健診内容に加え、B群溶血性レンサ球菌検査を行います。
妊娠後期
1週間に1回の健診となり、妊娠中期までの健診内容に加え、「ノンストレステスト(NST)」と呼ばれる、胎内の赤ちゃんが元気かどうかと母体で子宮収縮が起こっていないか、必要に応じて検査を行うことがあります。
これらの健診の中で、切迫早産の兆候がないかどうかも確認が行われます。
切迫早産との診断がされていない場合、妊婦健診や医療機関の診察は基本的に実費負担(※)ですが、赤ちゃんにも母体にも万が一のことがないように、妊婦健診は決められたスケジュール通りに受け、それ以外に気になる症状や身体に違和感を感じた際は速やかに医療機関を受診し専門医に相談するようにしましょう。
※妊婦健診の費用には、公費による補助制度があります。妊娠がわかったら、お住まいの市町村へ「妊娠届」を出しましょう。
検査方法
切迫早産の検査方法は、一般的な問診・内診・NST などで子宮の収縮やお腹の痛みを評価し、経腟超音波検査によって、子宮口の開きをチェックします。
また、子宮頸管の長さを測ることが、切迫早産を診断する上で重要です。具体的には、24週の時点で子宮頚部の長さが25㎜以下だと切迫早産と診断されることがあります(※)。正常な長さは、35㎜~40㎜と言われています。
※国立成育医療研究センター(早産外来)
治療方法
赤ちゃんのための治療では、細菌の感染を抑えるために抗菌薬を投与したり、近日中に生まれそうな場合、生まれた後の赤ちゃんの状態をよくするために、ステロイドをお母さんに使うことがあります。
赤ちゃんの生まれるタイミングを少しでも遅らせるために、子宮収縮抑制剤を使用することがあります。また、自覚なく子宮口が開いていってしまう状態(子宮頚管無力症)のお母さんには、子宮頚管縫縮術といって、子宮の出口を縛る手術を行うこともあります。これらの治療法はいまだに世界中で研究が行われエビデンスがあるのかないのか検討されています。医療機関により、これらのどの治療法を選択するのか、経験から意見が分かれていますので、医療機関、医師の治療方針をよく聞くようにしましょう。
また、切迫早産の治療時には安静を求められることが多く、その場合はしっかりと身体を休めることに集中しましょう。
切迫早産についての総まとめ
今回は切迫早産について解説してきました。最後に重要なポイントを下記にまとめます。
お腹の張りや出血、破水に似た症状などが気になる方は切迫早産の恐れがあるかもしれません。
少しでも心当たりのある方は、まずはセルフチェックをしてみましょう。