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更新日:2023年6月26日 2,180PV
病院の〈知識〉を生活者の〈知恵〉へ

肺がん|専門医監修の症状とそのチェックのポイント

発信者
  • 中日新聞LINKED
監修者
  • 沼波 宏樹
  • 社会医療法人 大雄会 呼吸器外科 臨床副院長

気になる症状

最近、咳、痰、血痰、胸の痛み、息苦しさのような症状はありませんか?もしかしたら肺がんのリスクが隠れているかもしれません。

今回は、専門医が肺がんの基礎知識をわかりやすく解説します。

肺がんとは?

肺がんとは、気管や気管支、肺胞に生じるがんを指し、数あるがんの種類の中でも死亡率が最も高い疾患です。危険因子としては喫煙が挙げられますが、喫煙をしていない場合でも肺がんになる可能性があります。代表的な症状は、咳、痰、血痰、胸の痛み、息苦しさ、動悸、発熱などが挙げられますが、必ずしも全ての症状が出るというわけではなく、早期癌では、無症状であることも少なくありません。

また、肺がんは進行度によって大きく4つのステージ(病期)に分けられており、「腫瘍の状態」、「リンパ節(※)への広がり」、「他臓器への転移」の3つの観点から、ステージⅠ〜Ⅳのどこに位置するのか判断され、I期よりもII期、II期よりもIII期と、ステージが上がるほど、より進行した肺がんであり、完治の可能性や生存率は低くなっていきます。

※リンパ節:風邪をひいたり歯ぐきの感染が起こると、のどやあごの下に”グリグリ“とはれた結節を触れることがあります。これがリンパ節です。リンパ節どうしは細い管(リンパ管)でつながっていて、中にはリンパ液が流れています。普段はリンパ管に入り込んだ細菌やウイルスなどの異物をせき止めて排除し、外敵から体を守る働きがあります。リンパ管にがん細胞が入り込むとリンパの流れに沿って広がっていきます。これを”リンパ行性転移“と言います。これに対して、がん細胞が血管に入り込み、血液の流れにのって脳や肝臓などに転移することを”血行性転移“と言います。一般的に”転移“と言われているのは、こちらの血行性転移のことです(後述)。

初期の肺がんは風邪のような症状であったり、全く症状が出ないことも多いため、自覚することが難しいとされています。そのまま何もせずに放置してしまうと、知らず知らずのうちに肺がんが進行してしまい、根治が難しくなります。そうならないためにも、早期発見・早期治療が必要不可欠となってきます。では、早期発見・早期治療するために、どのようなことに気をつければいいのでしょうか? 次の章では、早期発見・早期対処の重要性とそのために知っておくべきことを解説します。

目次

早期発見・早期治療の重要性とそのために知っておくべきこと

前章でもご説明したように、肺がんは気づかないまま時間が経つと命に関わるリスクが格段に高まってしまうため、早期発見・早期治療が特に重要となってくる疾患です。
その一方で、早期発見ができ、その後、迅速に適切な治療を受けることができれば、完治(※)できる可能性が高くなります。完治する確率(5年生存率)の目安としては、ステージ1で83.3%、ステージ2で52.7%、ステージ3で28.3%、ステージ4で7.1%となり、発見と治療が早ければ早いほど、完治の可能性が高くなります。

※肺がんは、治療や手術によってがん細胞を治療してから5年以内に再発がなければ「完治」として考えられます。再発する場合は治療、特に外科手術後、3年以内のケースが多く、5年以降に再発する割合が低いためです。

そして、早期発見のためには、ささいな異変などから「何かの病気かも?」という懸念を抱き、医療機関を受診し専門医に相談することが重要です。そうした懸念を抱けるよう、肺がんの危険因子や肺がんの症状をご紹介しますので、少しでも気になる点がある方は、お近くの医療機関に相談してください。

肺がんの危険因子

・喫煙
・周囲に喫煙者がいる(受動喫煙)
・男性
・肺気腫
・高齢(50歳以上)
・血縁者にがんの方がいる

肺がんの症状

・咳
・痰、血痰
・息苦しさ
・胸や背中の痛み

これらの症状は、肺がんがある程度進行した状態で起こってきます。早期癌では、そのほとんどが無症状です。そこで、確実に早期発見・早期治療をするためには、定期的に検診を受け、異変があればすぐに専門医に相談することが大切です。
喫煙される方、肺気腫と言われている方、50歳以上の方などは、1年に少なくとも1回の検診を受けるようにしましょう。
特に、喫煙指数(一日の喫煙本数x喫煙年数)が600以上の方は、低線量CTによるCT検診をお勧めします。

目次

肺がんが進行してしまうと

ここまで肺がんは早期発見・早期治療が重要ということをご説明してきましたが、もし発見が遅れ、肺がんが進行してしまった場合はどうなってしまうのでしょうか。

肺がんが進行してしまった場合について、いくつか具体例をご紹介します。

がんの転移

肺がんは、放置していると血液やリンパの流れにのって他の部位へ広がるリスクがあります。これをがんの転移といいます(前述のリンパ節のところを御参照ください)。転移しやすい場所として、骨、脳、肝臓、副腎そして肺などが挙げられます。転移による症状は、肺がんが転移した場所とその大きさによって変わってきます。転移した病変が小さいうちはほとんど症状がありません。ある程度大きくなってくると骨に転移している場合、痛みが起こることがあり、脳に転移している場合は、痙攣や手足の麻痺などの症状がでる恐れがあります。

呼吸不全

肺は呼吸をつかさどる臓器です。肺の中でがんが大きくなると肺の機能が低下し、呼吸に悪影響を及ぼし、酸素が必要になったり、寝たり起きたりの生活になってしまい、生活の質が著しく低下するほか、最悪の場合は呼吸困難で死に至ることがあります。

喀血

肺は空気を通す気管と血液を通す血管が密に絡み合っているので、がんが大きくなり気管に出る(浸潤と言います)と崩れて出血することがあります。この血液が口から出ることを“喀血”と言います。ドラマなどで結核の患者さんが喀血しているところをご覧になったことがあると思います。喀血した血液が肺に詰まると呼吸困難になり死亡することがあります。

激しい痛み

肺自体に痛みを感じる神経はありませんが、がんが胸の壁に浸潤している場合や骨に転移している場合、激しい痛みが生じることがあります。

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肺がんの検査方法と治療方法

この章では、肺がんの検査方法と治療方法についてご紹介します。

検査方法

肺がんの検査には目的別にいくつかの検査方法があります。 一般的に次の(1)~(3)への流れで検査が進んでいきます。

(1)早期発見のために行う検査
・胸部X線検査
・喀痰細胞診(かくたんさいぼうしん)

(2)肺がんの可能性がある場合に行う検査
・胸部CT検査

(3)肺がんの診断を確定するための検査
・気管支鏡検査(経気管支肺生検)
・経皮的針生検

(4)肺がんのステージを決定するための検査
・PET
・脳MRI
・骨シンチグラフィー

治療方法

肺がんの治療方法はステージによって異なり、進行するほど根治が難しくなります。

・ステージⅠ
手術による、肺がんの切除が基本的な治療となります。早期発見ができた場合は、縮小手術と呼ばれる、切除する範囲を必要最小限にとどめ、身体への負担を軽減できる方法が行えるケースもあります。また、肺がんの大きさに応じて、手術後に抗がん剤治療が追加で行われることがあります。

・ステージⅡ
手術により肺がんを切除し、術後に抗がん剤治療を行います。

・ステージⅢ
手術による肺がんの切除、術後の抗がん剤治療に加え、放射線療法を行うことがあります。患者さんの状態や肺がんの位置などによって、手術により肺がんを切除しても予後を延ばすことができない場合もあります。その場合は抗がん剤治療と放射線療法を行います。

・ステージⅣ
抗がん剤治療と放射線療法が主体となります。
抗癌剤治療や放射線治療を行い、転移した病巣がコントロールできた場合、肺に残ったがんの切除により予後を延ばせることがあります。加えて、その手術の安全性が確保てきた場合には、手術による肺がんの切除を行うケースもあります。

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肺がんについての総まとめ

今回は肺がんについて解説してきました。最後に重要なポイントを下記にまとめます。

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画像提供:PIXTA