心不全とは?
心不全は心臓のポンプ機能が低下して、全身の臓器が必要とする血液を十分に送り出せなくなる状態をいいます。心臓から血液が全身にうまく回っていかないと、全身に血液が十分に行き届かない「低心拍出(ていしんはくしゅつ)」と、体の血管に血液がたまる「うっ血」の状態になり、息切れやむくみの症状が現れるようになります。
症状が急速に出現・悪化したものを「急性心不全」、慢性的に症状があって日常生活に障害のあるものを「慢性心不全」といいます。慢性心不全は、高齢者がなりやすく、高齢社会の進展に伴い、今後も増えていくと予想されています。
ここでは慢性心不全のケアについて解説しますが、用語としては「心不全」と表現していきます。
心不全と関係の深い病気について
心不全になり、心臓の働きが悪くなると、ほかの病気を引き起こすことがあります。また、ほかの持病が悪化して、心不全になることもあります。心不全の第一の原因は心臓の病気ですが、それ以外で、心不全と関係の深い病気の一例を紹介します。心不全になったら、こうした病気にも気を配り、全身のリスクを管理していくことが重要です。
糖尿病
糖尿病はインスリンが十分に働かないために、血液中のブドウ糖(血糖)が増えてしまう病気です。糖尿病の影響で心筋にダメージを与え、心不全を発症させることがあります。
また、糖尿病による動脈硬化から高血圧を併発し、心臓に負担をかける状態がおきることもあります。
慢性腎臓病
心機能が低下すると腎臓に影響を与え、腎臓の働きが慢性的に低下することがあります。逆に腎臓の働きが悪くなると、体の中に水分が溜まりやすくなり、心不全を悪化させます。
慢性閉塞性肺疾患(COPD)
慢性閉塞性肺疾患(COPD)は、肺の内部が破壊されたり気管支が狭くなって、息苦しさなどが現れる病気です。肺の働きが低下すると、心不全も悪くなる可能性があります。
貧血
貧血は全身の細胞に酸素がいきわたりにくくなる状態です。貧血が悪化すると、心不全も悪くなる可能性があります。
睡眠時無呼吸症候群
寝ている間に何回も呼吸が止まる、睡眠時無呼吸症候群。心臓や血管に負担をかけるため、心不全が悪くなるリスクがあります。
高血圧
高血圧が続くと、血管の壁がだんだん厚くなり、動脈硬化を起こします。血液を送り出す心臓には大きな負担がかかるため、これに対応しようと心筋が分厚くなり、心不全の原因になります。
生活の管理について
心不全は症状がよくなっても完全に治ることはなく、悪化や改善を繰り返しながら徐々に進行します。そのため、生活習慣に気をつけて、病気とうまくつきあっていくことが大切です。主なポイントを紹介します。
減塩で、バランスのいい食事
理想的な食事は、肉や魚などのたんぱく質、食物繊維を含む野菜、ご飯などの炭水化物をバランスよく食べることです。とくに注意したいのは、塩分の摂りすぎ。塩分を摂りすぎると、体の中に水分を溜め込みやすくなり、高血圧やむくみの原因となり、心臓に負担をかけます。
[減塩の目標は1日6グラム未満です]
便通を整える
便秘による排便時のいきみは血圧を上げ、心臓に負担をかけます。「毎日決まった時間にトイレに行く」「食物繊維の多い野菜を摂る」などを心がけ、快便をめざしましょう。
心臓に配慮してお風呂に入る
熱いお湯は心臓に負担をかけます。お湯の温度は40〜41℃。湯船に入る深さはみぞおちあたりまでにして、10分程度つかりましょう。また、冬場は入浴前に脱衣所や浴室を温めておくことも重要なポイントです。
禁煙と節酒を心がける
タバコは血管を収縮させて血圧や脈拍を上げ、不整脈を引き起こし、心不全を悪くする可能性があります。また、お酒を飲みすぎると、水分のバランスがくずれ、血圧も上がり、心臓の負担になります。
感染症を予防する
インフルエンザ、肺炎などの感染症を起こすと、心臓に負担をかけ、心不全が悪化する原因になります。栄養バランスのとれた食事、適度な運動、手洗い・うがいなどを心がけ、感染を予防しましょう。
ストレスを溜め込まない
病気になると、生活の変化や経済的な負担などからストレスを抱えやすくなります。心配ごとは一人で抱え込まないようにして誰かに相談しましょう。また、毎日、規則正しい生活をして、十分な睡眠や休息をとりましょう。
内服管理をする
内服の自己中断により悪化されるケースは12%を占めています。処方されている薬をきちんと服用することで、生命予後を改善し入院を予防することが明らかにされていますので、自己判断で中止しないようにしましょう。
水分管理をする
心不全の患者さんは、喉の渇きを強く感じたり、塩分を求める傾向があり、塩分、水分制限の不徹底による悪化が33%と言われてます。過剰な体液の増加を防ぐためにも、必要以上の水分を摂らないことが大切です。
心不全手帳をつける
心不全の悪化を防ぐには、毎日の体調管理がとても重要です。手帳などに、毎日の体重、血圧、脈拍を記録し、日々の体調変化を確認し、受診時に主治医に報告しましょう。
また、いつもと様子が違うことがあったら、早期受診することも大切です。このためにも日々の体調変化を記録しておきましょう。
日本心不全学会では、病気や日常生活の心がけをまとめた記事と、体調変化を記入できる「心不全手帳」を作成し、ホームページからダウンロードできるようにしています。ぜひダウンロードして、お役立てください。
心臓リハビリテーションのすすめ
以前は、心臓病があると運動は避けるべきだと考えられていました。しかし、現在は、心臓病には運動は欠かせないものとして「心臓リハビリテーション」が行われています。退院後、自宅で療養するようになっても、主治医に相談し、心臓リハビリテーションを行いましょう。有酸素運動を中心とした運動を続けることで、心不全の悪化による再入院を防ぐことができます。
慢性期の心臓リハビリテーション
1)運動処方の作成
最初に病院で心肺運動負荷試験を行い、最大酸素摂取量や嫌気性代謝閾値を測定します。それらのデータをもとに、一人ひとりに最適の「運動処方」(どれくらいの強度の運動をどれくらいの時間行うか)を作成します。
2)有酸素運動を実施
運動処方に基づき、有酸素運動を中心とした運動を続けることで、自律神
経や血管の機能を整えます。心不全の悪化による再入院を防ぐ効果が期待できます。
3)多職種による生活指導・カウンセリング
リハビリテーションの機会を利用して、多職種による生活指導が行われます。薬剤師は薬がきちんと飲めているかどうか、栄養士は塩分を摂り過ぎていないか、節酒はできているか、などを確認します。このような取り組みは「包括的疾病管理プログラム」と呼ばれています。
慢性心不全ケアについての総まとめ
看護の視点から、心不全と長くつきあっていくための注意点などについて解説しました。
最後に、ポイントをまとめます。
心不全で療養中に、体調に変化が現れたら、早めに受診することが大切です。
よくある体調変化についてセルフチェックをしてみましょう。