脳梗塞とは?
脳梗塞とは、脳に酸素や栄養を送る動脈に血栓(血の塊)ができて血管を塞ぎ、血液が流れなくなることにより脳が壊死していく命に関わる疾患です。日本人の死亡原因の第4位が脳血管疾患ですが、その内の多くが脳梗塞によるものといわれています。
脳梗塞による主な症状は、手足にしびれや麻痺が出る、顔が歪む、ろれつが回らない、言葉が出てこない、視野が欠ける、意識障害が出るなど様々です。脳梗塞は、時間の経過とともに脳の壊死が進行し、これらの症状の回復が困難になってきます。一方で、脳梗塞による障害が小さいと症状が現れないケースもあり(無症候性脳梗塞)、知らず知らずのうちに脳梗塞が進行しているため、将来的に新たな脳梗塞を引き起こす可能性が高いと言われています。
脳梗塞の恐ろしいところは、突然発症することが多いことと一度壊死した脳は元に戻らないことです。これにより、発症後の対処が遅れて脳梗塞が重症化してしまうと、仮に助かったとしても重い後遺症が残ってしまうことがあります。
しかし、発症しても治療開始までに要した時間が短いほど、助かる確率が上がり、治療後に後遺症が残らない可能性も高まります。したがって、脳梗塞について理解を深めて早期発見・早期治療できるようにしておくことが、脳梗塞において非常に重要です。
早期発見の重要性とそのためにできること
前章でもご説明したように、脳梗塞は早期発見・早期治療が非常に重要な疾患です。この章では、早期発見の重要性とそのためにはどうすればいいのかについて、解説していきます。
近年、脳梗塞は治療方法や治療に用いられるデバイスの進歩により、治る可能性は以前と比べ高くなりました。ただし、脳梗塞の治療で最も重要なポイントは「時間との闘い」です。
これは、時間の経過とともに重症化していくことだけなく、有効な治療方法が取れなくなっていくことも理由として挙げられます。
例えば、t-PAという血管に詰まった血栓を溶かす薬を使用する治療法(血栓溶解術)があります。この方法の確立によって脳梗塞の治療は飛躍的に進歩したと言われていますが、適用条件の一つとして脳梗塞発症後4.5時間以内に限られています。また、発症後8時間以内など一定の基準に当てはまる場合は、血栓を除去する血管内治療も有効な方法です。
このように時間に制約があるため、脳梗塞の治療は早期発見と発見後の対応が非常に重要となってきます。
脳梗塞を早期発見するための方法について解説しますので、ぜひ参考にしてください。
「一過性脳虚血発作」を見逃さない
一過性脳虚血発作(TIA)とは、一時的に脳に血流が流れなくなり前述したような脳梗塞と似た症状を引き起こす発作のことです。通常は24時間以内にこうした症状がなくなるため、発作を起こしても見過ごされることがあります。
しかし、一過性脳虚血発作は脳梗塞の前兆と言われており、一過性脳虚血発作後90日以内に15%~20%の人が脳梗塞を発症。その中の約半数は、発作後2日以内に脳梗塞を発症しているということが分かっています。
したがって、短期間でも脳梗塞の初期症状と疑わしい状態になった人は、必ず病院で検査を受けるようにしましょう。一過性脳虚血発作をきっかけに早期に受診すれば、大きく脳梗塞発症のリスクが下がることが分かっています。
早期発見のための「FAST(ファスト)」
脳梗塞の症状を自覚するために「FAST」というキーワードがあります。
これは、「疾患の疑いがある場合はすぐに病院にいきましょう」という意味を込めた言葉ですが、一文字ずつにも意味があり初期症状のセルフチェックに役立つようになっています。
F・・・フェイス(顔)のFです。
口角の片方が下がっていたり、顔が左右非対称に歪んでいる場合は、脳梗塞を含む脳卒中を疑いましょう。また、食べ物が口の片側からこぼれ落ちてしまう場合も要注意です。
A・・・アーム(腕)のAです。
腕を身体の前に上げたときに、片方だけ落ちていってしまう場合は脳梗塞を含む脳卒中を疑いましょう。また、お茶碗やお箸を落としてしまうなど腕の片方に不自由がある場合も要注意です。
S・・・スピーチ(発話)のSです。
ろれつが回らない、言葉がうまく出てこないなど、話すことに関して不自由を感じたら、脳梗塞を含む脳卒中を疑いましょう。また、会話の中で思ったことではないことを回答してしまう場合も要注意です。
T・・・タイム(時間)のTです。
これはセルフチェックの結果、少しでも脳梗塞を含む脳卒中の疑いがある場合は、迷わずすぐに病院に向かいましょうという意味です。また、先述の通り治療方法と発症後の経過時間には強い関係性が有るため、発症時の時間を記録しておくことも重要です。
脳梗塞の重症化リスク
ここまで脳梗塞は早期発見し適切な対処を行うことが重要ということを解説してきましたが、もし発見が遅れ、脳梗塞が重症化した場合はどうなってしまうのでしょうか。
脳梗塞の発見が遅れてしまえばしまうほど、脳の組織の壊死は進んでいきます。そして、壊死した部分は二度と元に戻らず、最悪の場合そのまま命を落とすリスクもあるため、一刻も早い対応が求められます。一方で、命が助かったとしても、一度壊死した脳の部分が司っている様々な機能(思考、運動、感覚、理解、感情、言語、聴覚、視覚)には重く障害が残ってしまいます。
後遺症として残る具体的な障害
・運動麻痺:身体の一部が動かしづらくなる状態
・感覚麻痺:触られたりしたときに本来感じるはずの感覚が鈍くなる状態
・言語障害:話す以外にも、聞く、読む、書くといった機能が低下している状態
・嚥下障害:食べ物や飲み物を口から飲み込んで胃へ送り込む機能が低下している状態
・高次脳機能障害:記憶障害や注意障害(注意力散漫など)や学習障害、認知障害、失行(道具が上手くつかえない)、失認(目の前の物を認識できない)、半側空間無視(左右どちらかにあるものが認識できない)といった障害の総称
・精神障害:代表的な例はうつで、無気力になったり常にネガティブなイメージを持つようになる
こうした後遺症はリハビリテーションによって少しずつ改善していくしかありませんが、改善の度合いは脳梗塞の重症度や、障害のある脳の機能によって変わってきます。
また、脳梗塞は再発する可能性が高く、発症後1年以内に10%、5年以内に35%、10年以内に50%の方が再発すると言われています。1度目の脳梗塞よりも再発した脳梗塞の方が重い症状になることもあり、食生活や喫煙などの生活習慣の改善をはじめとした再発の予防も重要です。
このように、脳梗塞は命に関わる危険な疾患であると共に、たとえ助かったとしても重度の後遺症が残ってしまい日常生活に戻ることすらも難しくなってしまったり、再発・重症化リスクの高い疾患です。
そうならないためにも、早期発見・早期治療に努めるようにしましょう。特に、50歳以上の方や、生活習慣病をお持ちの方、喫煙または飲酒量の多い方は発症リスクが高いため、定期的に健康診断を受けるなど早期発見に向けて積極的に動くようにしましょう。
脳梗塞の検査方法と治療方法
この章では、脳梗塞の検査方法と治療方法についてご紹介します。
検査方法
脳梗塞は脳の血管が細くなったり、詰まったりして起こるため、脳の血管の状態を調べる必要があります。そのための主な方法は「CT」や「MRI」で脳の断面を観察する方法や、超音波検査、MRアンギオグラフィー、ヘリカルCT、脳血管造影といった方法があります。特に、MRI画像はより早い時期に脳梗塞の診断が可能となっています。
治療方法
脳梗塞の急性期治療には主に「t-PA投与(血栓溶解術)」と「血管内治療」があります。
発症後から4.5時間以内であれば、脳血管に詰まった血栓を溶かす薬を静脈に注射する「t-PA投与(血栓溶解術)」という治療が行えます。また、発症後8時間以内であれば、カテーテルという道具を使って、脳血管の血栓を取ったり、吸引するなどして、血流を再開させる「血管内治療」が行えます。これらの治療は、生命が助かる確率を上げるだけでなく、治療後に後遺症が残らない可能性も高めることができます。
一方で、それ以降の時間になると48時間以内であれば血が固まるのを抑制する「抗凝固薬」を投与したり、脳梗塞の種類によっては血を固まりにくくする「抗血小板薬」を投与することで状態の改善を図ります。
また、脳梗塞の治療実績が多い病院とそうでない病院がありますので、万が一の時のために、ご自身の住む地域にどんな病院があるのかを把握しておくことも重要です。
脳梗塞についての総まとめ
今回は脳梗塞について解説してきました。
最後に重要なポイントを下記にまとめます。
顔の歪み、手足のしびれや麻痺、ろれつが回らないなどの症状に心当たりがあれば早急に病院へ行くか、救急車を要請して専門医を受診してください。
症状に心当たりのない方でも、セルフチェックを行い、気になる点があれば「FAST」を心がけたり、専門医に相談し、脳梗塞の予防や早期発見に努めるようにしましょう。