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更新日:2023年6月27日 443PV
病院の〈知識〉を生活者の〈知恵〉へ

介護の困りごと・排便|医療職監修のポイントとセルフチェック

発信者
  • 中日新聞LINKED
監修者

気になる症状

便秘や便漏れ、便失禁などの症状がある方はいらっしゃいませんか?もしかしたら、排便管理・ケアが必要なサインかもしれません。

今回は、医療スタッフが、療養生活中や在宅介護における排便介助のポイントをお伝えします。

排便管理とは?

排便管理とは、加齢や障害などにより介助を必要とする方が排便行為でのトラブルを抱えている場合に行うケアのことです。排便トラブルには便秘や下痢、便失禁などがあり、どれも被介助者、介助者どちらにも大きな負担を与えてしまうトラブルです。

こうした排便トラブルは、食生活の改善や薬剤療法、適度な運動などにより解消する可能性もありますが、高齢者や障害のある方の場合は、介助やケアが必要になるケースがあります。

排便には大腸が便を直腸に送りこむ蠕動運動の「便を動かす力」、モノが上から下に落ちる「重力」、そして便を出そうとする「いきむ力」という3つの力が必要になります。しかし、高齢になるとこの腸の働きが低下したり、寝たきりの場合は、重力やいきむ力をうまく使えない状態にあります。これらの原因により、高齢者の多くの方で便秘が起こりやすく、その便秘を解消しようとし下剤を使用して、逆に下痢になるなどのトラブルも起こります。

排便管理について、少しでも不安があったり、気になる点がある場合には、かかりつけ医または専門の医療スタッフがいる機関に相談しましょう。

目次

排便管理や排便介助でおさえておきたいポイント

在宅で介護をしている際に、便失禁がなくなるだけでも、在宅での介護が楽になったという声も聞きます。それだけ排便管理というのは、介助者の負担を減らす、そして被介助者の自尊心を守るという点で大切です。しかし、排便管理において適切な介助が行われず、環境も整っていない場合は、様々なリスクが高まってしまいます。この章では、それらのリスクの具体例を紹介します。

QOLの低下

排便の失敗や便疾患は被介助者にとっても、やはり恥ずかしいものであり、精神的な苦痛を強いられるものです。その苦痛から便の回数を減らそうと食事を十分に摂取しなくなる方もいます。そうすると、身体の栄養が不足してしまい、排便トラブルの状態の悪化だけでなく、低栄養や脱水症状のリスクも高まってしまいます。

新たな疾患の発生

高齢になるにつれ、排便時の「いきむ」力が弱くなっていくため、便秘にもなりやすくなります。便が腸内に溜まりすぎると、いぼ痔や切れ時、糞便塞栓症、直腸潰瘍、虚血性腸炎など、様々な疾患が発生するリスクが高くなります。

免疫力の低下

便秘が続き腸内環境が悪化してしまうと、腸内の免疫機能が低下し、感染症のリスクが高まります。高齢の方は体力も減衰していて、重症化の恐れがあるため、特に注意が必要です。

排便は、食物を摂取し、栄養を吸収し、不要になったものを排泄していくという人間が生きていくうえで必要な行為であり、食べ物が体の中を通って行った証になるものです。介護施設で勤務する方は、この便を「身体が出しているサイン」として見ている方もいます。少しでも良い排便ができるための工夫をしていくことが重要です。

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具体的な介助方法と望まれる環境

この章では、まずは排便自体の状態を良い方向へ持っていくための介助方法、そして安心して排便できる環境づくりの具体例をご紹介します。

便秘の場合

高齢者は腸の働きの低下や排便する力が低下することにより便秘になる可能性が高まります。そのため食事内容の見直しやマッサージなどにより便秘解消をしていきます。

・食物繊維豊富な食事内容への改善
・腸の蠕動運動を促進する腹部のマッサージ
・起床後と就寝前に水を1杯飲む
・排便時の姿勢のレクチャー

便失禁の場合

自分の意図と関係なく便が漏れるのが便失禁です。便を排出するのに必要な肛門括約筋を鍛えたり、食事を含めた生活習慣の見直しで改善を図ります。

・食物繊維の摂取
・骨盤底筋体操の実施
・規則的な排便習慣をつける
・便の硬さを調整する薬の使用

望まれる環境

排便には姿勢も重要とされています。安全な排便姿勢をとれるように環境整備をします。

・立ち座りしやすい便器への変更
・ポータブルトイレの設置
・トイレまでの動線やトイレ内に手すりを設置
・トイレを広くし、ゆったりと排便できる空間を作る

在宅で介護を行う場合は、全てを介助するのではなく、被介助者自身で行えることは一人で行ってもらうことも重要です。最初は手伝いながら行い、次第にご自身の力のみで行っていけ状況をつくり、「自分の力でできること」をひとつでも多くしていくことでその人らしい生活をできるようにサポートしましょう。

排便に関する介助は、介助の中でも特にデリケートな問題です。恥ずかしさから便意をなかなか伝えることができず、トイレまで間に合わなかったり、無意識のうちに便意をがまんしてしまうようになり、さらに便意のコントロールが困難になる恐れもあります。安心して排泄ができる状態と環境を作っていきましょう。

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排便管理や介助に役立つ介護用品

この章では排便管理や介助を安全に安心して行えることを目的にした介護用品を紹介します。

転倒予防のための環境づくりを行う

トイレ用フレーム
便座からの立ち上がりをスムーズに行えるようひじ掛けのついたフレームです。

手すり
住宅改修で設置もできますが、レンタルで設置可能な手すりもあります。

排便を必要な時に、いつでも行えるように

ポータブルトイレ
部屋に置くことのできるトイレです。便座の中にバケツが入っていて、事前にバケツに水を溜め、排泄物をバケツにたまる構造になっています。要介護認定を受けている方は、ケアプランによっては、特定福祉用具として、介護保険を利用して安価に購入できます。

介護用おむつ
万が一、便失禁をしてしまっても大丈夫なように介護用おむつもあります。最近では用途に応じたおむつが用意されています。利用者ご本人の希望と介助のしやすさを踏まえたおむつ選定が重要なため、医療・介護スタッフに相談しましょう。

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排便管理・ケアの総まとめ

ここまで排便管理や介助に関する注意点や対策を述べてきましたが、改めてポイントを整理します。

排泄は生きている上で誰もが必ずする動作です。気をつけたいポイントを知り、安心した生活を送れるようにしましょう。
気になる方はセルフチェックをして、かかりつけ医やお世話になっているケアマネージャーへ相談してください。

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画像提供:PIXTA