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更新日:2023年6月27日 329PV
病院の〈知識〉を生活者の〈知恵〉へ

介護の困りごと・入浴 |医療職監修のポイントとセルフチェック

発信者
  • 中日新聞LINKED
監修者
  • 中根 道和
  • みよし市民病院 リハビリテーション課 理学療法士

気になる症状

自宅で入浴介助をしている際、ヒヤッとしたことや、不安になったことはありませんか?
それは、入浴時のケアについて考える機会かもしれません。

入浴とは?

入浴は、身体を清潔に保ち感染症などを予防すること、また湯船につかり温まることで血流もよくなりリラックスできるなどの効果があります。特に、日本人は湯船に浸かってお風呂を満喫するという習慣がついている人も多い傾向にあります。

ただ、入浴をするのには、複雑な動作が多い上、血圧の変化など身体への影響のほか、脱衣所、浴室など住環境についても配慮しないといけません。

以下、入浴時に気をつけたいリスクを紹介します。

転倒

・服を脱いだり、着たりする際にバランスを崩す。
・濡れた浴室内で滑る。
・浴槽のまたぎや、椅子などからの立ち座りでバランスを崩す。

ヒートショック

・脱衣所と浴室内の温度差、温かいお湯に浸かることにより血圧が変化し、心筋梗塞や脳梗塞など命に関わる状況を引き起こす。

溺れる

・入浴中に血圧の変化によって意識を失い、浴室内を滑り落ちて溺れてしまう。

このように、「転倒」「ヒートショック」「溺れる」など、実はリスクが潜んでいる場所だということを知っておきましょう。

目次

入浴に注意したいリスク

この章では入浴時に潜んでいるリスクについてさらに詳しく解説します。

転倒

服を脱ぎ、入浴、洗体、身体を乾かし、服を着るまでの一連の動作で転倒のリスクがあります。

更衣中の転倒
服を脱いだり、着たりするのには、腕を大きく回したり、前かがみになったりと体の重心が移動することでバランスを崩すことがあります。また服を脱ぎ肌が露わになっている状態で、転倒すると大きなケガになる場合もあります。

浴室内での転倒
浴室内は濡れていることもあり滑りやすくなっています。また石鹸やボディソープを使って体を洗うため、より滑りやすくなります。また、脱衣所と浴室の段差や、浴槽と洗い場など水はけの都合上の高低差もあるため、立ったり、浴槽をまたぐ動作が筋力の弱ってきている高齢者にとって負担になる場合もあります。

ヒートショック

日本家屋は部屋によって温度差があることが多く、構造上、リビングなどが日当たりのいい場所に設計されており、浴室は日の当たらない場所につくられることも多くあります。そのため、通常過ごす場所よりも寒暖差があります。特に冬などは、暖房の効いたリビングから寒い脱衣所に移動することで血圧が上昇し、服を脱ぎ浴室へ入るとさらに血圧が上昇。その後、浴槽につかると急に体が温まり血圧は下降します。特に10℃以上の温度差がある場所は、心筋梗塞や脳梗塞などを引き起こすヒートショックのリスクが高いと言われています。

溺れる

「湯船につかってのんびり」が理想ですが、湯につかりすぎてしまいのぼせてしまうこともあります。温かいお湯に浸かることで、血圧が下降し意識を失ってしまうと、そのままお湯の中に浸かってしまい溺れてしまうことがあります。最悪の場合は、死に至る事故にもなりえます。
※※家庭内での不慮の事故による死因の1位は「溺死・溺水」で、必ずしも高齢者のみではありません。

以上のように入浴は、加齢や障害だけでなく、浴室の環境により、身体への影響も大きい日常的な行為になります。

目次

適切な介助と環境の重要性

この章では、入浴の際に考えられるリスクを人的サポートと環境整備により回避する方法について解説します。

入浴時の人的サポート

着替えを含む入浴の時の介助の目的は、「安全に入浴し、清潔さを保つこととリラックスすること」です。介助する際には以下のことをポイントとしてください。

移動・乗り移りのサポート
安全に浴室まで移動する、また浴槽に乗り移れるようにサポートしましょう。

手が届きにくい部位の洗体をサポート
加齢や障害により関節の可動域が狭くなっているため、背中や足先など洗いにくい場所も増えますので、サポートしましょう。

体を拭くのをサポート
なるべく大きめのバスタオルを使い、拭く時間を短縮することで入浴の保温効果もあります。

着替え後に必要なものを用意しておく
おむつや吸水パッドを使用している方はこれらも準備しておきましょう。
場合によってはスキンケアのお手伝いも

高齢者はお肌が乾燥しがちです。保湿をしっかりしながら、かゆみや赤み(床ずれ)などのお肌の様子もチェックしましょう。

また、そもそも「お風呂に入るか」という点も確認をしましょう。体調によっては入浴しない方が良い場合もあります。こうした体調への配慮も人的サポートで補います。

環境整備の方法

脱衣所や浴室内に福祉用具などを設置し、転倒などを予防します。また、脱衣所などで暖房を活用することもおすすめです。場合によっては住宅改修も視野に入れて、安全な環境を作りましょう。

目次

介護用品を使用した入浴介助の環境整備の具体例

この章では入浴時のリスクを軽減するための介護用品や対応策についてご紹介します。

転倒を防ぐ

立ったり、座ったりを補助することを目的とした福祉用具があります。要介護認定を受けている場合は介護保険を利用して安価で特定福祉用具として購入したり、レンタル利用できるものもありますので、気になる方はケアマネージャーなどに相談をしてください。

・脱衣所への手すりの設置
・シャワーチェア・浴槽用手すり・浴槽台などの入浴補助用具
・浴槽内を滑りにくくする浴槽内マット

ヒートショックを防ぐ

脱衣所に小型のヒーターを置くことで室温を上げ、ヒートショックを予防します。また浴室の扉を予め開けておいたり、シャワーをしばらく出しっぱなしにしておくことで脱衣所と浴室の温度差を減らします。

住宅改修による環境整備

浴室内に手すりをつけたり、浴室自体を住宅改修で環境整備することもできます。最近では滑りにくい床材を使用したユニットバスも増えています。

また上限はありますが、介護保険を利用して住宅改修をすることもできますので、ケアマネージャーや福祉用具貸与事業所へ相談してください。
・手すりの取り付け
・浴槽の変更

目次

入浴介助の総まとめ

ここまで入浴介助に関する注意点や対策を述べてきましたが、改めてポイントを整理します。

誰もが住み慣れた家で生活したいという思いはありますが、それがリスクになる場合もあります。気をつけたいポイントを知り、安心した生活を送れるようにしましょう。

気になる方はセルフチェックをして、かかりつけ医やお世話になっているケアマネージャーへ相談してください。

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