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更新日:2023年6月27日 417PV
病院の〈知識〉を生活者の〈知恵〉へ

介護の困りごと・食事|医療職監修のポイントとセルフチェック

発信者
  • 中日新聞LINKED
監修者
  • 今井 瑛子
  • みよし市民病院 リハビリテーション課 言語聴覚士

気になる症状

食事に時間が掛かり、促しや介助が必要になってきたと感じることはありませんか?
もしかしたら食事動作の介助、ケアが必要なサインかもしれません。
今回は、医療スタッフが食事介助のポイントをお伝えします。

食事とは?

食事とは、食べることだけでなく、食事が適切に用意された状態で、適当な食器を使って食物を運ぶ動作から、咀嚼し嚥下するまでのことを指します。食事に関して最近何か気になる点があれば、この一連の流れの中でどこかに問題があることが考えられます。

健康増進法では、年齢や活動レベルに応じて必要となるエネルギーと栄養素の指標が定められています。一般的に75歳以上の平均的な活動をしている男性で2,100キロカロリー、女性では1,650キロカロリーが必要とされています。通常はこの必要なエネルギー源を食事から摂取しているのですが、この食事に課題が生じると、高齢者の場合、栄養不足に陥ってしまうことが多くあります。

また加齢や障害により食事をする姿勢が悪くなってしまうと、食道ではなく気道に入ってしまうことで誤嚥、悪化して誤嚥性肺炎のリスクになることもあります。

また食事はエネルギー摂取だけでなく、「おいしいものを食べる」という生活に潤いを与えてくれるものですので、そうならないために気をつけるポイントをご紹介します。

目次

食事の水準が低下してしまった際のリスク

食事をするときに気をつけたいポイントは、適切なものを、適切に食べることです。そうしないと以下のようなリスクが発生します。

QOLが低下するリスク

食事をはじめ、日常生活動作の水準が低下すると、社会参加への意欲や生きがいを感じにくくなり、活動性が低下してしまい、家に閉じこもったり、塞ぎ込み気味になるなど、心身の機能の衰退が懸念されます。心身の機能が低下すると、さらに日常生活動作の水準が低下するという悪循環に陥り、最悪の場合寝たきりになってしまう恐れがあります。

誤嚥のリスク

誤嚥は、嚥下する際に食道ではなく気道に食べ物や唾液が入ってしまうことです。本来、咳込んだり、ムセたりすることで誤嚥したものを排出しますが、高齢になると咳込みやムセが上手く行えない場合があります。そうすると、細菌が気道を通して肺に到達し、肺炎を起こすリスクが高くなります。

低栄養のリスク

食事が上手く行えなかったり、食事内容が適切でないと、栄養が不足し、やがて低栄養の状態に陥る可能性があります。低栄養になると、体力や免疫力が低下し、病気になりやすくなってしまったり、筋肉量や骨量が減少してしまうことで、骨折などのリスクが高まってしまいます。さらに認知機能の低下の要因ともなってしまうため、認知症の発症に繋がるリスクも高くなります。

高齢者は「サルコペニア」に気をつけなければなりません。サルコペニアは加齢により筋肉量が減少、また筋力が低下していくことですが、実は低栄養とも関係があります。これは活動量が減り、食欲がわかなくなる、そして食事量が減り、栄養状態になる。そうなると筋肉が減って筋力が低下し、体力も低下して疲れやすくなり、さらに活動量が減って・・・という負のスパイラルになっていきます。

次の章では、適切に食事を行うために必要な介助方法と環境づくりについて解説します。

目次

具体的な介助方法と望まれる環境

適切な食事の摂り方について、「食事姿勢」、「食事動作」、「食事形態」、「食事介助」について紹介します。

食事姿勢

・長時間座りながら食事をしていると疲労へとつながり誤嚥する危険性が高まります。1回の食事で30分程度座ることを想定し、疲労しているようであれば、背もたれ付きの車椅子やベッド上の食事を検討しましょう。

・頭や骨盤の位置を調整し、背もたれやベッドと隙間なく接しているか確認します。隙間があれば、クッションを挟んで安定するようにしましょう。

・目線がやや上向きで顎を突き出した状態では、誰しもが飲み込むことが難しいです。顎が上がってしまう場合は頭の下にクッションを用いて、顎を引いた姿勢で食事できるようにしましょう。

・高次脳機能障害の注意障害の方や、認知機能が低下している方の中には、1つのことに集中して取り組むことが難しいことがあります。人の出入りの多い場所は避け、テレビを消すなどして刺激を減らし、落ち着いて食事に集中できる環境をつくりましょう。

食事動作

・腕が上がりにくい場合は、テーブルと身体をできるだけ密着させ、両肘をテーブルの上にのせるなど、両手の操作が容易にできるような調整が必要です。両肘をのせて食べることができる、車椅子用のテーブルもあります。

・テーブルの高さは好みや習慣もありますが、へそと脇の中間位にすることで、肩関節に過度な負担がかかりにくいといわれています。

・すくいやすい食器、柄が太いスプーン、柄が曲がるスプーン、滑りにくい器やお盆、持ち手のある器など、様々な商品があります。最近では100円均一などのディスカウントショップでも介護用品が充実しています。一度試していただいても良いかもしれません。

食事内容

・食事内容を考える上で、口腔の状態はとても重要です。口腔内が清潔に保たれているか、歯や義歯はしっかり合っているか確認しましょう。歯の調整が済むまでは、容易に噛める軟らかい食事への変更も必要です。

・栄養面では、食事バランスガイドを参考にして献立を考えるのも良いでしょう。また、食欲が低下し食べる量が減ってきた方は、市販の補助栄養食品(高カロリーのゼリーや食品)を取り入れてみるのも良いかもしれません。
・認知機能低下や加齢が進むと、食事を拒否することがあります。嗜好に合わせて好きな食べ物を提供する、以前の食事習慣になるべく近い環境にする対応をしてみましょう。

・食事を飲み込むまでには、口腔内で十分に咀嚼し、舌や顎を動かしながら唾液と混ぜ合わせて食事をひとまとめにする動作が必要です。食事をモグモグとずっと噛んでいる、食事中によくムセているようであれば、食事形態の変更や水分にトロミが必要なサインかもしれません。

・食事をただ刻んだだけでは、口腔内に散らばり飲み込みにくくなる可能性が極めて高くなります。軟らかくまとまりやすい食事やペースト状にして食べやすくする工夫が必要です。最近では市販のレトルト状になった嚥下食も増えてきています。費用は掛かりますが、一度試していただくのも嚥下食の参考になり良いかもしれません。

食事介助

・食事前に、しっかり起きているか確認しましょう。また、熱がある、呼吸が普段と異なる、痰でゼコゼコしている時は、食事は無理のない範囲で済ますか、症状が続く場合は医療機関に受診することも考慮しましょう。

・介助者は横に座り、目線を合わせた状態で介助するようにしましょう。

・口腔内に食べ物が入っている時には話し掛けないようにしましょう。呼吸と嚥下のタイミングがずれてムセを引き起こすことに繋がります。

・しっかりと飲み込んだことを確認してから、次の一口を提供するようにしましょう。口腔内から食べ物が無くなっても、喉に残っていることがあります。飲み込んだ際に、喉仏が上下に動くことを確認しましょう。

・自己摂取できる方の中には、速いペースで食べてしまうことがあります。ゆっくりとしたペースで食べて頂くように声掛けをするようにしましょう。

・食後は口腔ケアを必ず行いましょう。また、食物の逆流を防ぐため、横になるのは食後20~30分経ってからにしましょう。

目次

食事介助に役立つ介護用品・介護食の具体例

この章では食事介助を安全に行うための福祉用具や対応策についてご紹介します。

食べやすい環境づくりをする

・車椅子用テーブル
車いす生活をしている方向けに車椅子に取り付けられるテーブルです。

・スプーン・フォークなどの食事用の自助具
麻痺や握力が低下した方でも使いやすいように握りの部分がスポンジで太くなっているスプーンやフォークがあります。これらの商品は先が曲がるようになっているものもあり、横から介助をしてもスプーンの角度を変えることにより口元へまっすぐスプーンの先が運べるようになるものもあります。

・食器
麻痺や握力低下、指の変形で指先が上手く使えず、食器を落としてしまうこともあります。落としても割れないメラミン食器や取っ手のついたお椀などもあります。

食べやすい介護食を選ぶ

最近はさまざまな食品メーカーが介護食や栄養補助食品を販売するようになりました。在宅で食事のケアをされる場合、こうした食事を選ぶのも選択肢の一つに挙げられます。

食事は人が生きていく上では必要なものであり、楽しみの一つでもあります。少しでも長く楽しめる工夫をしていきましょう。

食事介助についての総まとめ

ここまで食事介助に関する注意点や対策を述べてきましたが、改めてポイントを整理します。

食事は人が生きていく上では必要なものであり、楽しみの一つでもありますが、リスクになる場合もあります。気をつけたいポイントをしり、安心した生活を送れるようにしましょう。気になる方はセルフチェックをして、かかりつけ医やお世話になっているケアマネージャーへ相談してください。

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