看護師と病院、 双方の思いを結び、 一つひとつの「看護」の可能性を紡ぎたい。

2017.10.2663 views

看護師の思いに寄り添う就業支援と、
求人施設に経済的負担をかけない
採用サポートの実践。

がんで亡くした母親にできなかったことをしたい。
その思いに支えられて看護の仕事を続けてきた。

「心機一転、新しい病院で働きたい」「しばらく休職していたが、もう一度看護職に復帰したい」—さまざまな理由で仕事を探しにきた看護師たちをにこやかな笑顔で迎えるのは、今年4月、愛知県ナースセンターの所長に就任したばかりの長谷川美鶴である。

それまで長谷川は、看護の道一筋に歩んできた。昭和47年、看護学校を卒業。名鉄病院に2年間勤務した後、49年、愛知県がんセンターに入職。愛知県職員の看護師として、定年まで勤め上げた。看護師として歩み出してすぐに愛知県がんセンターへ転職したのは、看護学校時代にがんで母を亡くした経験からだという。「とにかく早くがん看護に携わりたく…。母にできなかった分をなんとしても形にするのだという強い思いに支えられて、その後もずっと看護を続けてきました」と語る。

どんな看護人生だったのだろうか。「看護は決して楽な仕事ではありません。最初はいろいろ悩みましたが、10年も過ぎた頃でしょうか、ふと肩の力が抜けて気持ちが楽になりました。その時どきに与えられた課題も困難もすべて自分のためであると思えるようになり、それからは楽しんで仕事をしてこれました」と振り返る。また、仕事で行き詰まったとき、長谷川に看護のものさしを与えたのは、ナイチンゲールの看護論だったという。「“看護とは、新鮮な空気、暖かさ、清潔さ、静かさを最適に保ち、食事を適切に選択し管理すること——こういったすべてのことを、患者の生命力の消耗を最少にするように整えることを意味する”と、ナイチンゲールの『看護覚え書』にあります。悩んだときはいつも、この教えに則って看護の方向性を考えるようにしてきました」。

看護職の最終経歴は、愛知県がんセンター愛知病院看護部長。そのキャリアを活かし、定年後も医療界に貢献したいと考え、愛知県ナースセンターに再就職した。


看護経験者だからこそ、
看護師の立場で考え、就職を支援できる。

ここに来るまでは、「ナースセンターは職業斡旋するところ」という程度の認識しかなかったという長谷川。看護部長として何度か利用したことはあるが、求職者の情報が充分に得られないときもあり、歯痒さを感じることもあったと評価する。

「そんな歯痒さを今、求人施設の方に与えているのかな、と思うと、もっといろいろ改善していかねば、と思います。私自身、長く病院に勤務していたので、病院の方から話を伺えば、それぞれの施設の特色や良さを理解することができます。そういう規模や条件だけでは見えない職場環境の良さを、求職者に伝えていきたいということが一つあります。これからは求人施設の方と一緒に人材採用を考えていけるような関係づくりをしていきたいですね。もう一つは、これまでの看護経験を活かし、看護師の方々の悩みや思いを聞いて、就職のお手伝いをしていきたいな、と」。

ナースセンターの職員は全部で6名。その半数は看護経験者である。看護の先輩だからこそ、看護師の悩みや思いに寄り添った支援ができることは、他とは違うナースセンターの特色といえるだろう。

たとえば、こんなケースがあった。「子育てしながら働きたいが、希望する病院は託児所の空きがなくて…と相談にこられた方がいました。人柄が良く、意欲も高かったので、希望される病院に直接交渉し、面接して就職していただくことができました」。このように一人ひとりに深く関わっていくのが、長谷川の描く理想の就職支援である。


看護師一人ひとりが自己の向上をめざし、
価値ある転職をしてほしい。

その一方で、所長に就任して数カ月、いくつもの課題も見えてきたという。たとえば、求人施設と求職者の数のアンバランスだ。求人施設の方が3倍くらい多く、なかなか条件が合わず、就職の決まる人は年間で700〜800人に留まる。

「看護師は自分を活かすことで、楽しさややりがいを見出していきます。個々の力を活かすような環境づくりを、病院にお願いしたいと思います」と語る。また、看護師に対しては、「一人ひとりが自分で考え、自己実現をめざしていかないと、労働条件や職場環境の不満なところばかりに目が向き、達成感・満足感が得難く、キャリアの発展につながらない」と忠告する。「職場環境は与えられるものと思われがちですが、そうではなく、自分自身も環境をつくっている一部です。働きやすい職場づくりに積極的に努力していくことが大切です」。

また、続々と参入してきた民間による有料職業紹介所との差別化も大きな課題である。有料職業紹介所の場合、当然ながら求人施設が看護師獲得の手数料を支払う。手数料の額はまちまちだが、看護師の年収の20%に相当するところもあるという。もちろん、求職者にとって魅力的な「転職お祝い金」も、求人施設が支払っているのが実情だ。

この背景には、看護師の数が診療報酬に直結することから、看護師争奪戦が過熱していることがある。しかし、看護師を「数」で捉える風潮に、長谷川は異を唱える。

「有料職業紹介所の多くは、看護を知らない方が行っています。また、そこに求人施設から紹介料を取るということで、極端にいえば、お金を出してくれるところに看護師を紹介するという傾向は否めません。その結果、求職者のキャリアや生活背景などに合致した就職とならず、ミスマッチを起こしている例は多々あります。求人施設が、私たちのような無料サービスを利用することで、そういう本来は必要のない資金を子育て支援など、看護師の福利厚生に利用していただけたらいいなと思うんです。そうなるよう、私たちがもっとがんばらなくてはなりません」。また、看護師に対しては、「転職に関わるお金の流れもきちんと知って、仕事を探してほしいし、就職で大切なのは、そこで長く勤められるかどうか。安易な決め方で自分のキャリアへの遠回りをせず、事前に病院見学などをして充分に納得した上で選んでほしい」と助言する。


看護師の達成感を支援し、
一つひとつの看護の可能性を紡ぎたい。

これからのナースセンターの役割について、長谷川は「看護師の生きがい支援」という大きな視野で考えている。「就業相談や職業紹介を通じて、私たちが関わった一人ひとりが、自分の望む場所で達成感をもって働けるよう支援していきたいですね。そういう自律性のある職員が増えることは、求人施設にとっても看護の質の向上という確かな成果につながります。そのためにも多くの情報を集めて、求人施設の方や求職者との関係を深めながら、みんなに信頼されるナースセンターに育てていきたいと思います」。

就業支援は、一人ひとりの看護師の満足感ややりがいをつくり、一つひとつの「看護」の可能性を紡ぐものだ。その本質を外さない考え方は、看護経験豊富な長谷川ならではといえるだろう。「望んだ施設に就職が決まると、みなさん報告してくださいます。そんなときに聞く電話の声は、すごく弾んでいて…。なによりの喜びの瞬間ですね」と、長谷川はうれしそうに語る。

愛知県ナースセンターでは、こういった看護師の就業促進のほか、看護職をめざす学生に看護の楽しさを伝える「看護の心」普及事業や、訪問看護支援事業なども手がけている。長谷川はそれらすべてに新しい息吹を吹き込みながら、ナースセンターをさらにパワーアップしていこうとしている。

COLUMN

●ナースセンター」というキーワードでネット検索すると、検索結果の最初のページに、民間の有料職業紹介所のサイトがずらりと並ぶ。これらは看護協会の運営している無料職業紹介とは全く関係がない。「ナースセンター」という言葉をセールスコピーに使った類似サイトである。愛知県ナースセンターを利用するなら、必ずホームページにある「eナースセンター」からアクセスしよう。ここに登録すると、希望にあった求人施設を効率良く検索できるようになっている。
●有料職業紹介所のサイトをクリックすると、「高収入・高待遇・転職お祝い金…」と、思わず飛びつきたくなる魅力的な言葉が並ぶ。しかし、仕事は条件だけで選ぶものではない。お金に関するトラブルが発生する可能性もある。仕事を求める人は、より慎重に、自分に合った就職先を選ぶことが大切といえるだろう。


BACK  STAGE

●公益法人制度改革法が平成20年12月に施行され、日本看護協会は平成23年4月1日、社団法人から公益社団法人へと移行した。この流れにともない、愛知県看護協会も来年度、公益社団法人へ移行するための準備を進めている。愛知県看護協会では県民の健康と福祉の増進を目的に活動してきたが、今後さらにこの使命を果たすために、公益目的事業に力を入れていく方針だ。

●県民の健康ニーズに応える試みとして、愛知県看護協会は株式会社スギ薬局と提携し、「専門看護相談」にも取り組んでいる。これは、スギ薬局店舗(今池・徳重・金山駅前店)に認定看護師が出向き、無料で看護に関わる相談に答えるもの。愛知県看護協会では今後さらにこうした活動に力を入れ、より生活に近いところで看護の力を発揮していこうとしている。

 

中日新聞LINKED LINE〈公式〉アカウントはじめました。

ID検索
この記事をシェア
  • アバター
    fujita

中日新聞リンクト編集部からのお願い

皆さまからいただくコメント・ご意見が、私たちの活力になります。より良いサイトづくりのため、皆さまの投稿をお待ちしておりますので、ぜひ下記投稿欄からお気軽にコメントください!

>