中日新聞 地域医療ソーシャルNEWS
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地域に翼を広げる看護師たち

2017年11月2日|1,454 VIEW

看護師というと、どんなイメージを持つだろうか。
病院の中にいて、患者のベッドサイドにやさしく寄り添う。そんな姿ではないだろうか。
しかし、ここにきて、そのイメージが大きく変わろうとしている。
〈患者〉が療養する場が、病院から在宅へとシフトし、看護師の働く場所が地域へ広がりつつあるのだ。
こうした社会の変化、医療の変化において、これからの看護師にはどんな役割が求められていくのか、また、地域で働く看護師を増やしていくにはどうすればいいのか、考えていきたい。
全体のナビゲーター役は、愛知県看護協会の鈴木正子会長にお願いした。

 

 

病院から在宅へ、療養の場が変わる。

これからは、療養の場が病院から在宅に広がる。その動きの背景には、国による医療政策がある。すなわち、団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となる2025年をめどに、国は高齢化で増え続ける医療費を抑えるため、病床の削減と平均在院日数の短縮化を図る一方で、在宅医療を拡充。病院で療養するのではなく、積極的な治療が終わった後は速やかに退院し、自宅や介護施設・福祉施設(以下、施設と表記)で、生活しながら療養していくような体制づくりを進めているのだ。
それは言葉を換えると〈地域全体が病院になる〉ということ。病院で積極的な治療を終えた患者は、自宅や施設のベッドで、必要な医療を受けながら療養を続ける。いわば、そこが患者の〈病室〉となる。医師や看護師は、病室である患者宅や施設に出向き、必要に応じて治療や看護を行うのだ。実際、フランスではそうした発想に基づく〈在宅入院制度(※)〉を世界に先駆けて導入し、医療必要度の高い患者を在宅生活にソフトランディング(軟着陸)させ、質の高い在宅支援を行っている。

※フランスの在宅入院制度は、患者の自宅を病院の病室とみなし、多職種連携体制により、在宅療養する患者を支える仕組み。


看護師は生活の質を高めるキーパーソン。

超高齢社会における在宅(施設を含む)療養で必要とされるのは、どんな医療だろうか。急性期病院で提供されるのは、病気の完治を目的とした〈治す〉医療である。しかし、在宅では、治すことよりも〈支える〉医療が大切になる。なぜなら、対象は、何らかの病気を持ち、その病気を上手にコントロールしながら、穏やかに生活していこうとする高齢の患者と家族。その思いに応え、患者の病状を悪化させず、良好な状態を維持できるように支援することが、求められるからだ。
そうした在宅療養を支えるキーパーソンとして期待されるのが、〈看護師〉である。なぜだろうか。愛知県看護協会の鈴木正子会長に話を聞いた。「第一に、看護師が、もともと〈生活の場〉から生まれた職業だからだと思います。日本における看護師は、明治・大正時代に生まれました。当時、看護師は派出看護婦、家庭看護婦などと呼ばれ、患者の家に出向いて、健康管理を行うのが仕事でした。いわば、訪問看護師こそ、看護師のルーツだったわけですね」。今では病院という非日常空間で行う看護が一般的だと思われているが、実は日常空間のなかにこそ、看護師の原点がある。



また、鈴木会長は、「第二に、チーム医療を束ねる〈要〉としても、看護師は在宅療養に欠かせない存在」だと言う。「在宅医療・介護の現場では、病院と同じようにチーム体制が組まれ、医師、看護師、薬剤師、リハビリテーションスタッフ、ヘルパーなど、在宅医療・介護に関わる多職種が連携し、長期にわたって患者を支えていきます。その多職種連携の要となり、必要な医療・介護サービスをコーディネートする適任者は、やはり看護師だと思います。なぜなら、看護師は〈療養上の世話〉と〈診療の補助〉の二つの領域に携わり、患者さんを支えていく唯一の職業だからです」。
〈療養上の世話〉と〈診療の補助〉は、そもそも法律で定められた看護師の役割。療養上の世話とは、単なる身の回りの世話ではなく、患者を観察し、アセスメント(判断や分析)をして、適切な援助を行うこと。診療の補助とは、患者の個別性を意識しながら、医師の指示に従って医行為を行い、治療によって起こるリスク管理も含めて、患者を援助していくことを指す。療養と、そこで行われる医療の両面をカバーする看護師だからこそ、多職種を繋ぎ、医療・介護サービスを繋ぐ役割を果たせるのだ。では、在宅での看護師の活躍フィールドはどこにあるのか。代表的な事例を紹介しよう。


 

訪問看護師は在宅療養の最前線を担う。地域の訪問看護ステーションなどに所属し、利用者宅を定期的に訪問。たとえ医療必要度が高くても、患者と家族が安心して在宅療養を続けられるように、かかりつけ医の指示のもと、点滴や注射、傷や床ずれの処置、栄養管理、呼吸管理などを行う。さらに、患者の病状と暮らしのアセスメントをして、必要な医療・介護サービスを患者に繋ぐとともに、病状が悪化したときは、入院治療が必要かどうかを、かかりつけ医とともに判断する役割を担う。そして終末期には、看取りをも含め、最期まで生活の質を保てるように援助していく。
訪問看護師は現在、全国に約3万4,000人。在宅での看取りまでを考えると、現在の4〜5倍、約15万人に増やす必要があるといわれている。


 

退院支援・調整は、入院患者の退院後の療養生活を考え、適切な退院先(病院や施設)を確保したり、自宅に戻る場合に必要な医療・介護サービスの継続と活用を支援する業務。決して病院の都合で早期退院を促すのではなく、あくまでも患者を安心の在宅生活へ導くことが目的となる。もともと退院支援・調整は、院内の医療ソーシャルワーカーが、社会福祉の立場から関わってきた。しかし、医療必要度が残る状態で退院し、病気とともに生きていく患者を支援するには、医療・介護の知識が必要となる。そのため近年は、医療ソーシャルワーカーと連携して退院支援・調整を行う看護師を、専従で配置する急性期病院が急増している。退院支援・調整看護師は、病院の看護を在宅の看護へ繋ぎ、患者に切れ目のない連続性のある看護を提供していく。


 

ケアマネジャー(介護支援専門員)は、在宅療養における多職種協働の医療・介護サービスの全体をマネジメント(管理)していく役割を担う。具体的には、利用者と家族の要望をきめ細かく聞き、利用者の療養生活の質の向上と、家族の介護負担の軽減を両立できるような介護プランを作成。適切な医療・介護サービスを組み立てていく。
ケアマネジャーとして活躍する人は、看護領域の出身者(看護師など)と介護領域の出身者(介護福祉士など)が中心となっているが、現在は介護系の人が多い。しかし、今後は病気を抱えながら、在宅で療養生活を続ける高齢者が増えていくことを考えると、医療と療養に精通した看護師がケアマネジャーであることが望ましいが、その数は決して多くなってきていない。


 

介護老人保健施設、介護老人福祉施設、有料老人ホーム、軽費老人ホーム(ケアハウス)、グループホームなど、さまざまな施設で生活する高齢者たち。そのなかにも、日常的に看護師のサポートを必要とする人が増加している。そのため、看護師が常駐して利用者の健康管理や看護、衛生上の管理指導などを行う施設が増えている。とくに介護老人福祉施設や有料老人ホームなどでは医師が常駐していないため、利用者が急変したときに適切に対応するなど、看護師が果たす役割は大きい。
なお、日本の施設では介護スタッフが中心となって利用者の生活を援助し、看護師の配置人数は限られている。しかし、欧米諸国では、看護師が中心になって高齢者や障害者のケアに従事するナーシングホーム(高齢者福祉施設)が普及している。



地域で働く看護師、キーワードは〈自立〉。

看護師の養成数は、養成教育機関の政策的な増加により増えている。それに伴って、訪問看護師やケアマネジャーなど、地域で活動する看護師(以下、地域の看護師と表記)たちは、少しずつ増加していくことであろう。ただ、人数だけを揃えれば事足りるわけではなく、地域の看護師には高い看護実践能力が求められる。
では、地域の看護師にはどんな能力が求められるのだろうか。「キーワードは、〈自立〉だと思います。自分を律する〈自律〉という意味も含めて、看護専門職として自分で意思決定できる能力が必要です」と鈴木会長は語る。確かに、在宅では看護師が一人で患者と向き合い、判断する場面が多くなる。そうしたとき、病院ではすぐそばに医師をはじめ、多様な医療スタッフがいて相談することができるが、生活の場ではそうはいかない。患者それぞれの病状や生活環境の違いに応じて、フレキシブルに判断し、自分の裁量で医師をはじめとする多職種へと繋いだり、看護を行っていくことが重要となる。



自立した看護師を増やすには、看護の基礎教育において〈在宅看護〉をしっかり指導するとともに、卒業後の教育体制を見直す必要があるだろう。従来、看護師の継続教育は、個々の病院が担っていた。そこでは、急性期病院なら急性期の看護に特化した教育が、回復期リハビリテーション病院なら回復期の看護に必要な知識と技術の習得が中心となる。それに加えて、地域で活動する看護師としての教育も、行うことはできないだろうか。二次医療圏(※)内にある自院とは異なる領域の病院、また、訪問看護ステーションなどで、ある程度期間を決めて経験を積み、自分の専門性と自立を高めていくような教育プログラムだ。そして各病院や施設で行う教育を繋ぎ、地域全体の教育プログラムに昇華させていく。鈴木会長は「それは素晴らしいと思います」とうなずき、次のように続けた。「社会は今、多様なシーンで看護師を必要としています。そうした社会のニーズに合わせて、看護師たちが自分のキャリアを設計できるような継続教育システムができれば理想的ですね」。

※二次医療圏とは、地域ごとに入院ベッドがどれだけ必要かを考慮して決められる医療の地域圏。手術や救急などの一般的な医療を地域で完結することをめざしている。愛知県の二次医療圏は12圏域ある。


地域の看護師のキャリア形成を支援する。

地域の看護師の教育と並んで、鈴木会長が重要視するのは、地域の看護師のキャリア形成をバックアップする仕組みと体制づくりである。「病院に勤務する看護師は、病院がさまざまな支援をしています。しかし、病院という大きな組織に属さず、地域で活動する看護師にも、そうした支援体制が必要だと思います」。それを率先して作っていくのは、看護協会の使命になるだろう。「現在、愛知県看護協会では、看護師の研修や就業支援などを目的とした〈ナースセンター〉を、新たに名古屋駅前に開設する支所を含め、名古屋市に2カ所、豊橋市に1カ所有しています。また、協会自体、現在県下に7地区支部を置いていますが、今後は二次医療圏ごとに支部を作ることを視野に入れ、看護師一人ひとりのキャリア形成を支援できればいいと思います。そこで必要な視点は、ワークライフバランスです。なぜなら、看護師には女性が多く、結婚、出産、育児といったライフイベントがあります。なかでも育児をしつつ、それまでと同様に働き続けることは難しく、仕事を辞める看護師が少なくありません。そうではなく地域医療全体で、生活と仕事を両立できる勤務形態を生み出し、そのときどきで職場を異動することにより、キャリアを継続できる仕組みを作っていきたいと思います」。
そのためには、行政をはじめ、地域の医療機関や介護保健・福祉施設、訪問看護ステーションなどが密に連携し、待遇の改善、福利厚生の充実など、地域の看護師が働きやすい支援体制の確立、という課題に取り組むことが必要だ。「そこでは、看護師の職能団体である私たち看護協会が、強いリーダーシップを発揮しなければと自覚しています。その一例として、看護師同士がいつでも情報交換し合える、看護職キャリア形成支援システムを、愛知県看護協会として独自開発することを計画しています」と、鈴木会長は語る。
地域の看護師の教育、そしてキャリア形成の支援に強い意欲を示す看護協会。鈴木会長は「生活者の皆さんには、専門的な看護の価値を〈認め〉、看護師をプロとして〈尊重〉し、活動を〈支援〉してくださることをお願いしたいですね」と言葉を締め括った。



 

超高齢社会において、重要な役割が期待される地域の看護師たち。だが現在、その数は圧倒的に不足しており、それを増やすとなると、地域の看護師を支える環境整備が必要だが、それは一朝一夕にできるものではない。
いわば現在は〈過渡期〉といえるが、そこで重要な役割を果たすべきは、看護師を集中的に抱える急性期病院だろう。すでにいくつかの急性期病院では、褥瘡(じょくそう・床ずれ)・緩和ケア・ストーマ(人工肛門)などの専門領域で高度な知識・技術を持つリソースナース(※)を、地域へと派遣。訪問看護師や施設の看護師を支援したり、訪問看護師に同行して患者を訪ね、高度な看護実践を行うなど、さまざまな側面から在宅看護を支えているのだ。
そうしたリソースナースの活動などを通じ、今の過渡期を何とか乗り越えるとして、本文で紹介した教育プログラムや支援体制の確立を進めていくには、実際、誰がどのように行っていくかが問題となる。たとえば、平成26年の改正医療法に基づき、国は、医療従事者の離職防止や医療安全の確保等を図るため、都道府県医療勤務環境改善支援センターの整備を定めた。そこでは地域の医療機関・団体(医師会、看護協会、病院団体等)、都道府県などが、運営協議会を通して連携するという形が取られている。そこから見えてくるのは、行政を含め単体の組織・団体では、医療従事者に関する問題の解決は困難であり、実際には医療機関を含め〈みんなの総意で支える機能〉が必要という現実だ。LINKEDはさらに加えて、医療機関・団体の活動を横軸で繋ぎ、推進力を与え、且つ、必要な財源を、行政の予算だけに頼るのではなく確保する。こうした側面からの支援活動もまた不可避であると考える。

※リソースは資源、ナースは看護師。二つの単語を組み合わせて、専門性の高い知識・技術を持ち、看護実践を支援する人的資源を「リソースナース」と呼ぶ。

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